1年ルーキーくん。君自身が自覚しているように、君はチームにとってルーキーなのです。ルーキーは直訳すると新人選手という意味ですが、日本では、期待される新人選手という意味合いで使われることが多いです。ですから、1年ルーキーくんは、今の活躍はもちろん、将来はチームのエースとしての活躍を期待されているのです。すばらしいことですね。きっと、周りのみんなは、そんなルーキーくんのことをうらやましく、尊敬のまなざしで見ていることでしょう。
そう考えると、1年生ながら、先輩と一緒に試合に出場しプレーできることは、とても幸せなことです。誰でも試合に出たいのです。活躍なんかできなくてもいいから、チームの一員としてコートに立ってプレーしたいのです。でも、出られないのです。きっと先輩の中にも、試合に出られない選手はいることでしょう。
当然、先輩の中でのプレーは緊張するでしょうし、先輩のきつい言葉もあるでしょう。しかし、まず、それ以上にルーキーくんは、試合に出られる恵まれた幸せな環境にあるということを自覚してほしいと思います。そのうえで、次の2点のように考えてみてはどうでしょうか。
1 緊張感が未知の力を引き出す
「緊張すると力が発揮できない」とよく言われます。確かにそうです。大事な時に緊張して舞い上がってしまい、何もできなかったなんていう経験は誰にでもあります。ただ、逆に緊張した場面が、日ごろとは違った精神状況をつくり、自分でも信じられないような力を引き出すこともあるのです。これが、後々大きな成長につながるのです。
リラックスした状況の中では、今まで蓄えてきた力を100%発揮できるかもしれません。しかし、それ以上の力は出ないのです。しかし、緊張した状況の中では、持てる力の120%以上が出せることもあるのです。また、それ以上に自分では気づかなかった未知の力も引き出されるのです。
試合中に練習では見たことのないプレーをする選手がいます。試合が終わった後、一皮むけて大きく化ける選手がいます。彼らは、人知れず、緊張感をもって試合に臨んだ選手たちなのです。
ルーキーくんのように、先輩の中で緊張しながらプレーするということは、常に大きく成長する舞台が整っているということです。間違いなく、自分の代になった時には、チームのエースに成長していることでしょう。だからあえて、顧問の先生は、君を先輩の中でプレーさせているのです。
常勝チームは、必ず後輩も入れた多学年でチームを創っているのはこのためです。
2 厳しさが負けない力を養う
部活動の最大の魅力は、異学年交流ができるということです。小中学校ではどうしても同じ学年の子と接することが多いです。しかし、部活動では、たとえば中学校なら1年から3年まで3学年の子たちと交流することができます。社会へ出れば、もっと幅の広い異年齢の人たちと交流しながらうまくやっていかなければならないのです。部活動はそのための大切な勉強の機会なのです。
中学生にとって先輩の言葉は、絶対です。親や教師の言う言葉より重いのです。今、学校や家庭から厳しさがどんどんなくなりつつあります。ルーキーくんはどう感じていますか。学校で先生から涙が出るほど厳しくしかられたことがありますか。家で、親から雷を落とされ、家から追い出されたことがありますか。ルーキーくんの周りの大人たちは、君が間違ったことをしても、悪いことをしても、じっくり話を聞いてくれ、しっかりと受け止めてくれますよね。厳しく突き放されることも、罰を与えられることもないでしょう。でも、これでは、強い気持ちは養えないのです。あえて、厳しい世界へ飛び込むことこそが今の中学生には必要なのです。
こう考えると、失敗したら厳しい言葉を浴びせてくれる先輩がいることは何て幸せなことなのでしょうか。逆に失敗しても「いいよ。いいよ」とか「ナイストライ」などと声をかけられても成長にはつながりません。先輩は、自分たちの代のチームで夢をつかみたいのです。だから、ルーキーくんにもうまくなってもらい、チーム力を高め、勝ち上がれるチームを創っていきたいのです。先輩の厳しい言葉は、先生の言葉よりもルーキーくんを大きく成長させる魔法の言葉になるのです。
先輩の言葉に「はい。分かりました」と大きな声で答え、「なにくそ」と心の中で拳を握りしめながら、ひたむきに練習に励んでください。その厳しい言葉に負けない態度が、試合の土壇場で起死回生の1発を放つ力につながるのです。
ただし、先輩のきつい言葉が、耐えきれなくなった場合は、すぐに顧問の先生に相談してください。いじめにつながっていく場合もあります。
1年後、ルーキーくんがチームのエースになり、ハンドボール界を背負って立つ選手に成長していることを期待しています。
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相談者:公立中学校サッカー部顧問
試合中に、点を決められてしまったときや、負けている状況から、なかなか盛り返せず、雰囲気よく試合を進めることができない。どんな状況でも最善を尽くせるチームにするためにはどうしたらよいか。
試合中には、「波がある」という言い方をよくします。「良い波」のときは、何をやっても首尾よく進み、点がどんどん入っていきます。反対に「悪い波」のときには、何をやってもうまくいかず、何点も失点してしまいます。いくら力の差があったとしても、試合中には、両チームに同じように「良い波」と「悪い波」が交互に押し寄せてくるのです。そして、「良い波」に乗って1点でも多く取り、「悪い波」のときには、耐えて、1点でも失点を少なくしのぐことが勝つためには必要なのです。逆に言えば、勝つチームは、このことを監督はもちろん、選手自身も心得ているのです。
先生のチームは、きっと「良い波」のときには、雰囲気もよくどんどんと点を取ってゲームの主導権を握って勝利を収めていると思われます。勝つときは快勝でしょう。しかし、相手にリードされたり、競り合った試合になったりすると惜敗してしまうことが多いのではないでしょうか。
では、今後どのような指導をしていったらいいのかを2つお話しします。
「良い波」のときに、1点多く得点し、「悪い波」のときは、失点を1点少なくするということをイメージして聞いてください。
・1つ目は、技術・戦術面です。「良い波」のときには、「いろいろなパターンで攻め立てる」ということです。「何をやってもうまくいく」状況なわけですから、相手は、まさしく波状攻撃を仕掛けられ、「なんて強いチームなんだろう」とひるむはずです。また、自分のチームにしてみれば、練習したパターンの攻撃がどれもこれも思うように決まるのですから、実践によって自信がつき、さらに波に乗れるだけではなく、その後のチーム力アップにもつながるのです。そのために、練習では、バリエーションに富んだ攻撃パターンの練習をすることです。「基礎ができていないから、オーソドックスな攻撃パターンを」と考えていては、いつまでたっても勝てるチームは創れません。
次に、守りについては、「相手の得意な攻撃パターンに絞って防御する」ということです。試合の前には対戦相手の得意な攻撃パターンについて分析し、対応練習をしておくことです。劣勢に立たされた相手は、ミスを恐れ、得意なパターンでの攻撃に頼るしかない状況に陥っています。その得意な攻撃も完璧に守られてしまえば、相手チームは、得意な攻撃にさえも不安を感じ、ガタガタに崩れていき、自分のチームは「良い波」のときに1点でも多く点を取ることができます。
反対に「悪い波」のときには、得意な攻撃パターンで攻め続けることです。先ほどお話ししたことと矛盾するようですが、止められようが、点が入らなかろうが、かまいません。ここで、自信のない中途半端なプレーで攻めれば、逆に攻め入られ、大量失点につながってしまいます。1点を取ることよりも1点でも失点を防ぐことが大切です。そして、得意な攻撃パターンが功を奏し始めたら、「良い波」がやってくる前兆です。得意な攻撃パターンを持つことが重要なのです。そして、貫き通す自信が持てるまで練習し続けることです。守りについても同様です。基礎・基本にのっとった守備を確実にやり続けることです。失点は覚悟します。
・2つ目は、メンタル面です。「悪い波」の状況のときに、雰囲気よく自分たちのプレーをするためには、どんな心持が必要かお話しします。まず、監督も生徒も必ず何度かやってくる「悪い波」のシミュレーションをし、覚悟しておくことです。予測し、備えているとき、人は精神的に崩れることはありません。そして、先にお話ししたように、備えて練習しておけば、失点は最小限に抑えられるはずです。ただ、レベルが上がり、上の大会を勝ち上がろうとする場合は、シミュレーションを超える「想定外」が起こることが増えていきます。この「想定外」に対応できる精神力を育成することは難しいことです。プロ選手でも専門のメンタルトレーナを付けているのは、このためなのです。
私の場合は、次の3点で「想定外」に負けない精神力を培っています。
1 自立させる
2 好きなものを断たせる
3 自問自答のときを持たせる
詳しくは、私の著書『勝つ部活動で健全な生徒を育成する』(黎明書房)を読んでいただけたら幸いです。
Q | |
相談者:中学校サッカー部キャプテンSoushi
「指示を出したときに動きが遅い」「言うことをきかない人がいる」「言われないと動けない」「人まかせが多い」などキャプテンとして悩んでいます。
どうしたらよいのでしょうか。
キャプテンは、孤独でつらい役割ですね。しかし、やりがいも大きく自分を大きく伸ばせる立場でもあります。また、顧問の先生はもちろん、チームのみんなの信頼と期待を受けてキャプテンを任されているのですから、誇らしくすばらしいことです。
Soushiくんの悩みについて、よくわかります。私の指導したチームのキャプテンたちもみな同じ悩みを抱えながら歯をくいしばっていました。今から、私がキャプテンに伝え続けたことをお話しします。
1 夢の再確認
「君のチームの夢は何ですか。」きっとキャプテンの君も夢がぼやけて見えなくなっているのではないですか。キャプテンがそうであるなら、他の部員たちには、夢は少しも見えなくなっている状況です。夢があるからつらい練習でも毎日踏ん張れるのです。夢が見えない練習では、なかなか気持ちが入らないのです。もう一度、キャプテン自ら夢の再確認をしてください。そして、練習中には、その夢を大きく書き、みんなが見える場所へ掲示しながら練習をするといいです。いい加減な練習になったり、愚痴がこぼれそうになったりしたときに、きっとその目に入る夢の文字がチームに大きな力を与えてくれるはずです。
夏の最後の大会での夢が再確認できたら、短期目標(次の大会の目標)から超短期目標(今日の練習の目標)へと目の前の具体的な目標を設定して、練習を行うようにしてください。目標設定は、顧問の先生と話し合いながら決めていくといいですね。
2 キャプテンと仲間の信頼関係の構築
キャプテン自身が、今の自分の評価をしてみてください。誰でも人のできていないことや悪いところはよく見えるものです。しかし、自分自身のことはなかなか分からないものです。リーダーたるもの、ときには立ち止まって自分自身を真摯に見つめ直すことが大事なのです。それによって、さらに仲間から信頼されるキャプテンへと成長していくのです。
では、どうやって自分自身の評価をすればよいのでしょう。それは実は簡単なことなのです。自分が人に対して不満に思っていることを「自分はどうか」と問うてみればよいのです。たとえば、Soushiくんが仲間に対して不満に思っていることを言い換えると、「自分の動きは遅くないか」「人の言うことを素直に聞いているか」「先生から指示されなくても自分から動いているか」「人任せにしていないか」という具合にです。こうやってみると、結構自分自身もできていないことに気づくものです。他の誰かができていないのではなく、キャプテンも含めたチーム全員がやれていないのです。他のすべてのメンバーが、キャプテンや仲間に対して似たようなことを感じているのであれば、信頼関係は築けません。
最後に、リーダーの条件を教えます。
1 MISSION(使命感)
2 VISION(未来を見る目)
3 PASSION(情熱)
この3つを常に意識して、みなから信頼され、あこがれられるキャプテンに成長していってください。勝つチームには、必ず「すごいキャプテン」がいるのです。
こんにちは。今、すごくつらくて、大好きなバスケをやめようか悩んでいます。 こもんの先生が他の学校にかわってしまい、新しい先生がこもんになりました。今までの先生と教え方がちがって、とまどってしまっています。新しい先生の言葉を素直にきけず、イライラしてしまい、表情がわるいとおこられて、もう、バスケが全然たのしくないです。市内大会で3位に入るのが夢なのに、どうしたらいいでしょうか。(ペンネーム・トイプードル)
公立の学校では、新任の先生は7年、それ以外の先生は11年以上は同じ学校に勤務できないことになっています。
ただ、いろいろな事情があって、それより短い年数で転勤してしまう先生も多くいます。ですので、トイプードルさんのように顧問の先生が、途中で転勤してしまうことはよくあることなのです。
転勤してしまった顧問の先生は、トイプードルさんにとっては、きっと信頼のおける素晴らしい先生だったのでしょうね。なおさら、残念で悲しい気持ちなのは、よく分かります。だから、新しい顧問の先生に心を開けずに素直になれないのでしょう。
次のように考えてみたらどうでしょうか。
・まず、チームのこと
今のトイプードルさんの練習態度は、きっとチームにとってマイナスです。その様子では、チームの夢はかないませんよね。
チームの夢をかなえるためには、今置かれている状況の中で、できることを精一杯やることが必要です。チームにとってマイナスになるようなことをしていてはいけないのです。
・次に、新しい顧問の先生のこと
新しい顧問の先生は、当然、君たちの夢をかなえてやりたいという気持ちを強く持ってみえます。ましてや、前の顧問の先生が素晴らしい先生であればあるほど、穴をあけてはいけないという気持ちで、いろいろ勉強をしてみえるはずです。
トイプードルさんにとっては、頼りなかったり、指導方法に満足いかないことがあったりするのかもしれません。しかし、その先生の思いをないがしろにしてはいけないのです。トイプードルさんが素直になったとき、新しい顧問の先生から教わることは、多くあるはずです。
・最後に、前の顧問の先生のこと
転勤していかれた先生は、きっと後ろ髪をひかれる思いで、涙を流しながら去っていかれたことでしょう。私も転勤するときは、残される生徒たちに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
でも、転勤しても教え子は教え子のままです。その教え子の活躍をどこの学校へいっても、祈っているのです。そして、3年生の夏の大会で、掲げた夢をかなえてくれることをずっと待ち望んでいるのです。きっと今のトイプードルさんの姿をみたら、残念に思うことでしょう。
このように考えて、明日から、笑顔で練習に参加してください。そして、新しい顧問の先生の指導に対して「はい」と素直な返事をかえしてください。その一歩大人になった行動が、トイプードルさんの周りの全ての人たちを幸せにしていくのです。
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