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教職員の異動に揺れる学校現場 |
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軸になる教師(ミドルリーダー)の育成 |
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2人のミドルリーダーの役割意識の中で |
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新たな挑戦に向かう教師たち |
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「学校づくり」は,F校長先生の学級づくり |
今,学校現場は,大きな岐路に立っています。学校という職場を構成する教師たちの年齢層が,大きく変化してきているのです。団塊の世代が引退した後,まだ残っている50代後半の世代と,団塊の世代との交代で新しく採用された若い世代の存在です。職場が大きく二極化しているのです。教師としての仕事に少しずつ自信を深めてきて,学校の中堅として活躍するミドルリーダーの存在が希薄になっています。
もっともミドルリーダーを次期教頭職や校長職に就くだろう教務主任を含めての高年層を念頭に置く考えもあります。しかし,私が思うには,学校の活性化は,中堅層が充実していくことだと思っています。その肝心な中堅層が,教師採用で一番の氷河期になったこともあって,たいへん手薄になっています。
それは,学校訪問をしていて,私が一番感じることです。
また,公立の学校現場では,人事異動という問題があって,時としてせっかく育てたリーダーが,異動してしまう場合もあります。
そんな中で,管理職にある者は、「学校経営」をして学校づくりをしていかなくてはなりません。
ここでは,小規模校でありながら,ミドルリーダーの育成を心がけて「学校づくり」をしていった事例を取り上げてみたいと思います。
1 教職員の異動に揺れる学校現場
その小学校は,今から4年前に学習指導の研究発表会を行いました。学年1学級ないし2学級の比較的小規模校に属する学校です。それが今では,この学校の研究発表会当時の教師は,当時教頭職だったF先生が,立場が校長職となって在任しているだけです。つまり3年の間に,すべての教職員が異動でこの学校を去って行ったのでした。それは,教師たちの希望ではありません。たいへん未練を残して,この学校を去って行った教師も多々いるのです。それは,校長職に就いたF先生には大きな試練でした。
私は,研究発表会の2年前から,この学校の指導助言にあたっていました。
「学校の営業は授業だ」と標榜する私の考えに共感してくださって,私の提唱する「見つけ学習」の手法によって,子どもたちは探究心旺盛で,「子どもを主人公にした参加型」の授業法を実践してくださっていました。
「見つけ学習」というのは,格別難しい授業法ではありません。この学校で行われていることは,国語の説明文では,たとえば,2年生の「ビーバーの大工事」を読んで,場面ごとに,「ビーバーのすごいところ見つけ」をしていくことです。見つけたすごいことについて,自分はどう思うかを書きこみます。
それをみんなで話し合い聴き合いながら,授業を深めていくのです。物語文では,物語から,「心に強く残ったところを見つけて,それについて自分はどう思ったか」を書き記して,やはり説明文と同じように,話し合い聴き合いをします。
「見つけ学習は,考えようによっては,とてもシンプルな学習法です。それが,この学校の教師たちに受け入れられて,ほんとうに日常的な実践になっていきました。何よりも子どもたちに「見つけ学習の学習法が身について」子どもたちは,読解力,観察力,資料活用力が向上し,歯を食いしばってがんばる姿を見ることができるようになって,研究発表会を迎えたのでした。
研究発表会は大勢の参観者を迎えて,多くの参観者にそれなりに「学びの手法」を感得してもらったことでした。
とにかくそれまでのこの職場の教師たちは,やる気満々で,実に貪欲に私に授業の方法について,根掘り葉掘り問いかけてきました。そして,日々の実践で,根気強くていねいに実践活動を展開していったのでした。少ないながらに一丸となって学校づくりにあたっている教師たちは,訪問して,それなりに関わっている私としては,実に指導・助言のしがいのある教師たちであったのでした。
その学校から,3年間の間に,校長さんを除いてすべての教師たちがいなくなってしまったのです。教頭職から校長職になったF先生は,「学校経営」にたいへん苦慮するはめになったのです。引き続いて「ぜひとも前田先生には,私を支えてください」ということで,研究発表までに子どもたちに根づいた「見つけ学習」の学習法や学習規律を,私も改めて指導助言をしていったのです。
2 軸になる教師(ミドルリーダー)の育成
「とにかく,先生からご指導いただいた学習法や学習規律が,この学校を創ってきました。だから,私は,その継承をしていきたいのです」「しかし,その学習法や学習規律は今いる教師たちの中では不確かになっています。どうか,前田先生には,私に力を貸してください」F校長さんの真剣な悩みとも思える願いを,私は受け止めるしかなかったのです。
私は,新しく赴任してきた教師たちの授業を参観することから始めました。そんな中にT先生がいたのです。T先生は,30代後半の女性教師です。私はT先生の目つきに「この人ならば,真摯に実践してくれる」と思ったのです。
さらにS先生も同じように40代前半の女性教師です。「この人たちが,この学校のミドルリーダーになってこそ,この学校の実践活動は継承発展できる」と願いを込めて思ったことでした。
T先生は,「前田先生,私は何もよく知りませんが,やる気はあります。本気になってやりますから,しごいてください」と真剣に訴えるのです。そんなT先生の姿勢に私は多くの優位な教師たちが去ったあとを埋めるに十分な人材だなと思ったことでした。S先生も自分の疑問に思ったことは,執拗に質問して自分が納得できるまで,私に迫ってきます。「校長先生,先生の学校では,これからT先生とS先生を軸に学校経営をしていくことになりますね。校長先生も,彼女ら二人を軸にして学校経営を推し進めてください」とお願いしたことでした。
この学校の教師の構成をみると,あとの教師たちは年齢的に50代の教師とまだまだ20代の若い教師たちです。いわゆる中間層が手薄になっています。そんな中での2人の存在は重要です。ミドルリーダーになってもらうことを意図して育てていくべきだと私は思ったことでした。実践の手法としては未知数な面が多々ありますが,やる気と自覚をもった2人です。私は,「この2人に賭けるべきだ」と校長さんに進言したことでした。
3 2人のミドルリーダーの役割意識の中で
私は,日常的な実践活動こそが,学校づくりだと思っています。2人の先生には,学級経営や授業実践で軸になってもらうのですが,そんな中でも,2人には役割意識を持ってほしいと思いました。T先生には,これまでのこの学校が積み上げてきた「見つけ学習」の学習法や学習規律の継承発展を意識して実践してほしいこと,S先生は,この学校の行事や学校全体の運営的な面でがんばってほしいことを意識して助言をしていきました。2人の女性教師は,そのことをよく自覚して取り組んでいきました。
T先生は,研究発表会時点では,国語の学習法が,中心で取り組んでいたので,まずはそれを十分吸収してほしいと願いました。T先生は,研究発表当時の要項を丹念に読みこむと同時に,授業公開を積極的に行うのです。そして,翌年には,国語だけではなく,理科の授業でも同じ学習法を生かした授業を展開していったのでした。私は,その実に積極的な姿勢に感動しました。
T先生のそんな取り組みの姿勢は,職場の空気を変えていきます。他の若手の教師たちが,子どもたちを引き連れてT先生の教室に授業参観にしばしば来たのです。年輩の先生方も,戸惑いはありましたが,そんなT先生の姿勢を否定するはずもありません。むしろ積極的に称賛して,「私もがんばらなくては……」という動きを創り出していきました。
S先生は,運動会をまずは活気のある行事にしようと体育的な取り組みに動きました。児童会活動を積極的にして「子どもを主人公にした学校づくり」を各領域で展開していったのです。S先生は高学年を担任することになって,学校の屋台骨を背負うことになっていったのです。校長さんは,S先生に「今のS先生のこの学校における立場」をこんこんとして話して,S先生のやる気と自覚を引き出していったのです。
4 新たな挑戦に向かう教師たち
T先生は,2年間,みっちり国語を「見つけ学習」の手法でやった後,3年目には理科で,そして,今年度は1年生を担任したこともあって,生活科のあさがおのさいばい活動を「見つけ学習」の手法でやったのです。
今,その経過の一端を指導計画から見てみましょう。
○指導計画(28時間完了)
第1次「あさがおをそだてよう」(4時間)
・2年生からあさがおのたねをもらったよ
・あさがおのたねまきのじゅんびをしよう
・あさがおのたねのすごいところを見つけよう
・土づくりをしてたねをまこう
第2次「おおきくなあれ」(13時間)
・たねまきしたあと,芽を出したあさがおのすごいところを見つけて,伝え合おう
・葉やつるを見て,すごいところを見つけて伝え合おう
・どんなせわが必要か,考え,せわをしよう
・つるや葉や花のすごいところを見つけて伝え合おう
・つるや葉や花のすごいところやおどろいたこと(萎れた病気になった)ことを見つけて伝え合おう
・あさがおの俳句をつくろう
・夏休みもあさがおのお世話を続けよう(見つけたすごいことやおどろいたことを書こう)
・色水やたたき染めをしよう
・花やたねのすごいところを見つけて伝え合おう
・根を見て,すごいところを見つけて伝え合おう
・あさがおのつるをリースにして乾燥させておこう
第3次「たねからたねへ」(11時間)
・いままでのあさがおのすごいところ見つけの日記から,振り返って俳句を作ろう
・マイあさがお(俳句)かるたを作ろう
・ともだちのマイあさがおカルタの中からすごいカルタを見つけよう
・2年生とマイあさがおカルタであそんでお礼をしよう
この指導計画を一見して気づくことは,子どもたちがやっていることは、単純そのものです。ひたすら世話をして,その中で観察して「すごいな!」「おどろいたな!」と思うことを見つけて,友だちに伝え合い,聴き合う中で,あさがおの観察力を磨いていくのです。
私が参観した授業は,マイあさがおカルタでの遊びを通して,みんなのカルタのすごいところを見つける授業でした。
子どもたちが作ったカルタの数例をあげると,
「ふたばだよ,つちにうまったたねさんが」
「あさがおは,てでさわったかんじがとうめいみたい」
「たねさんが,できてふたつにわれました」
「わたしのたねはにおいがしませんよ」
「はっぱさん,ざらざらしながら,のびていく」
「つちのなか,ねっこのおうちあそんでる」
「あさがおのくきがべにいろおもしろい」
「あさがおさん,はっぱが38こありました」
「ねっこさん,ふわふわしてて,きもちいい」
そのカルタを見ていると,子どもたちの観察力が鋭く具体的になったり,何かにたとえてイメージしたりする,そんな学習力がついてきています。
T先生が,ほんとうにこの半年間,根気強く地道に実践をしてきたことを思うのです。
また,S先生も,国語教材「大造じいさんとがん」で,場面読みではなく,あらすじ読みを終えた後,新出漢字,難しい語句を調べた後,初発の感想を書かせました。その話し合い,聴き合いを通して,子どもたちが,このお話で,心打たれたところ(心に強く残っていること)かを見つけ,話し合い,聴き合いをしながら,「読みの課題づくり」をしていきました。
読みの課題を作って,その課題を深めるために,どの語句を手掛かりに読むか,それは,「まさに見つける手法での学習法の新しい展開」でした。
このような,二人の先生の積極的な挑戦は,刺激的な実践活動を職場の中に喚起していったのでした。職場の教師たちは,互いに授業を参観し合い,研究発表会時よりも,一段と広がりと深まりを見せてきたのです。
5 「学校づくり」は,F校長先生の学級づくり
学校づくりは,「人あっての積極的なアプローチ」です。F校長先生は言います。「前田先生,学校づくりをすることは,学級づくりと同じですね。核になる教師をどうやって育てていくかを誤ってはならないのだと教えられたことです」教職員の極端な異動で,一時は学校が崩壊するのではないかと案じたF校長さんにも,2人のミドルリーダーの育ちとともに,この学校が活性化していく手ごたえを強く感じているのでした。
「ほんとうにそうですね。学校づくりは,公立の学校である以上,教職員の異動は避けられません。そうなると,そのときどきの教師たちの構成人員を見て,誰を核にして,学校づくりをしていくか,模索する必要があります。」「校長先生は,まるで学級担任している子どもを見守るように,教師たちを見つめ見届け,誰を核にして学校経営をしていくか,考えるのですね」私は,思わずそんなことを話したことです。
学校をどう経営していくか,その手法は各種あることでしょう。ただ,今の時代はミドルリーダーの存在感を強めていく手法も,大事な一手であると私自身教えられたことでした。
好評! 前田勝洋先生の“教師の知恵とワザ”の真髄を伝える4部作(黎明書房刊)
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